049ストラトキャスターのレリック

経年変化とか経年劣化という言葉があります。

かたちあるものは経年により変化します。そこには性能の劣化というマイナス面も含まれているかもしれませんが、共に過ごした時間の分だけ愛着が増しているので、トータルはプラスになるものだと考えています。ですから、経年劣化という言葉は使いません。

私は、自分の生活が写し取られたように表情を変えていく、経年変化を楽しめる素材や製品が好きです。着込まれて体に吸い付くようにフィットするレザージャケット、擦りきれて色褪せたデニム、履き込まれくたびれたブーツなどが、身近で代表的なものだと思います。

ギターを見ても、木材の伸縮や乾燥、塗装のキズやハゲ、金属パーツのくすみやサビ、プラスチックパーツの焼けなど、長く愛用していると各所に変化が現れます。どれだけ練習を積みステージをこなしてきたか、愛されて弾かれているギターであるかを伺い知ることができます。

とはいえ、週末しかギターを弾けない方が、自分のギターを50~60年代製のヴィンテージギターのような貫禄に育て上げるには、何十年かかるのか見当がつきません。

そんな思いに応え、一部のメーカーではAgedとかRelicと称して、ヴィンテージギターと見紛うリアルな加工で外観を再現された、新品のギターがリリースされたりもしています。楽器屋の目線で言えば、ピカピカの新品のように気を使う必要が無く、展示や試奏の取り扱いがしやすいのがありがたいです。


今回、レリック加工をご依頼頂いたのは、Fender / 1964 Stratocaster リイシューモデルです。外観の状態はほぼ新品で、鼈甲柄ピックガードとStringSaverサドルに交換されています。



レリック具合の参考のため、お客様から提供された画像はこちら。

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かなりハードなレリックなので、こうなる10年くらい前をテーマに作業させて頂きました。

作業前後の比較を動画でご覧ください。

どうやってエイジングの質感を再現しているのかは、企業秘密というほどではありませんが、素材や目的に合わせてケースバイケースです。

細かい部位をご覧頂きましょう。

塗装のクラックや金属パーツのくすみや錆びをつくるには、いくつかの薬剤を使用します。

works 049-6.jpg

ノブに刻まれた数字は、金属を配合した金色の塗料が使われており、酸化して緑色になります。焼けて黄ばんで、溝には汚れが詰まっている様子を再現。こうした細かなところが、わざとらしくないリアルな感じを作り出します。プラパーツの着色や仕上げには、模型づくりなどで使われる技術を多く応用できます。


ギター1本を丸ごとレリックすることは少ないですが、例えば、新しいパーツに交換した際に、周りの使い込まれた周りの質感と異なり目立ってしまう場合があるので、パーツをエイジングして馴染ませることができます。

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