018テレキャスターの配線変更
1951年に登場したテレキャスター(厳密には1950年にブロードキャスターの名でデビュ)は、2つのピックアップ(以下PU)、3wayピックアップセレクタースイッチ(以下スイッチ)、ボリュームとトーンのノブというコントロールを持っています。コントロールの構成は不変ですが、60年代後期まではスイッチ内部の配線が、我々が今知っているものとは異なっていました。
当時の仕様では、スイッチをボディ後方側から順に、①ブリッジPU → ②ネックPU → ③ネックPU(プリセットトーン)という3種類のサウンドバリエーションになっていました。現在の主流の仕様は、①ブリッジPU → ②ブリッジPU&ネックPU → ③ネックPU ですね。
プリセットトーンとは、ネックPUに付け加えられた「トーンノブの位置とは関係ない、独立したもう一つのトーン回路」のようなものです。スイッチのポジションを③にすると、ハイカットされたネックPUのサウンドが得られます。この回路が採用された経緯には諸説あり、ギターでベースラインを弾きベーシストの代わりをするためだとか、ジャズプレイヤーに人気があったGibsonのハムバッカーのような甘い音を再現しようとした…などと言われています。
もともとブリッジPUに比べ非力さが否めないネックPUに、ハイカットフィルターをかけることで、そのサウンドはかなり奥まってこもってしまいます。魅力がないとは言いませんが、実用的とも言い難いのが正直なところです。それよりも問題なのは、魅力的なブリッジPU&ネックPUのミックスサウンドが使えないことです。
今回、お預かりしたFender 52テレキャスターは、その名の通り1952年製のリイシューモデルです。このギターは1991年製ですので、プリセットトーンは忘れられた遺物でした。使われない機能だとの認識があっても、わざわざ再現するところにFenderのこだわりがあったのでしょう。ただ、実際に販売する現場では、回路をアップデートしてからお客様へお渡しすることがほとんどだったと思います。
スイッチの不調で交換をご依頼頂いたのですが、回路はオリジナルのままでしたのでこの機にアップデートをご提案させて頂きました。せっかくですから、回路の違いでサウンドを聴き比べてみましょう。
作業途中のためピックガードを外した裸の状態ですが、サウンドはいかがでしょうか?
オリジナルの回路では、プリセットトーンを選択した際に音量が下がってしまうことが気になります。アップデート後の回路でも、ネックPUを選択した状態でトーンノブを絞れば同じような音は得られますから、失うものはありません。さらに、リズムプレイが気持ち良い、クリアで歯切れの良さと太さもある、ミックスサウンドが選択できることが大きいです。テレキャスターのサウンドバリエーションが広がったことで、もっと好きになって頂けると思います。