015フレット擦り合わせ
弊社では、AメンテナンスとBメンテナンスという弦高調整を中心にしたセットメニューがあります。
Aメンテナンスは、弦高調整の基本である「ネックの反り」「ナットの高さ」「サドルの高さ」の3つを適正なバランスに整えることで、快適にプレイできる弦高を実現します。それにフレット擦り合わせという作業が追加されたものがBメンテナンスです。
お見積もりをさせて頂く時点で、あきらかに擦り合わせが必要と判断できる状態であれば、最初からBメンテナンスとして承るのですが、後述のとおり実際に作業を進めてみないと判断できない部分もありますので、Aメンテナンスとして承ったものを後からBメンテナンスへ変更させて頂くことも多いです。
フレットの高さのばらつきと、それを解消する擦り合わせについて解説させて頂きます。
フレットの高さは、マクロでは整って並んでいるように見えても、ミクロでは高さにばらつきがあります。ばらつきが生じる原因は以下の通りです。
第一に消耗です。よく弾き込まれたギターであれば、押さえる頻度が高いフレットほど擦り減って低くなることはご承知だと思います。
第二にフレットの浮きです。フレットは釘やくさびのように指板に打ち込まれているだけなので、気温や湿度の変化で指板が伸縮を繰り返すことで、すこし抜けて浮き上る(高くなる)ことがあります。ですから、あまり弾いていないギターや、ときには新品であっても、高さのばらつきが生じている可能性も十分にあります。
第三に部分的なネックの反りです。ネックが部分的に反っている「波打ち」や、ネックの付け根付近に音詰まりが生じる「元起き」、1弦側と6弦側で程度が異なる反りが生じる「ねじれ」など、そもそも指板がストレートでない場合、その上に乗っているフレットがいかに同じ高さであっても意味がありません。
フレットの高さのばらつきが原因で弦高を下げた際に生じるビビリについて、雑な手書きで申し訳ないですが、下記の図をご覧ください。
高めの弦高になっている場合は、フレットと弦とのクリアランス(赤矢印)が十分にあるため、少しくらい高さにばらつきがあってもビビリは生じません。
そのまま弦高を下げていくと、クリアランスが少なくなり、強く弾いたときにはフレットに当たってビビリが出やすくなります。
フレットを擦り合わせることで、高さが均一になりクリアランスが復活します。
実際の作業手順をご紹介いたします。
指板面およびボディトップにマスキングテープで養生をし、油性ペンで全フレットの頭頂部を黒く塗ります。
金やすりでフレットを粗削りしていきます。この段階ではフレットの背の高い部分のみが削れ、低い部分(矢印で示した部分)にはペンの色が残るので視覚的に確認できます。
高さが均一になったところで、サンドペーパーの番手を徐々に細かくしながら全体を擦り、フレットの形を丸く整えていきます。
スチールウールでフレットを磨き出した後、マスキングを剥がして清掃、指板をオイルアップして完成です。
指板全体の写真。
あらゆる場面でビビリを改善できるフレット擦り合わせですが、フレット全体の高さを低くすることは、フレットの交換時期が早まるという側面もあります。例えば、ローポジションでコード弾きメインで使っていて、1~5フレットだけが低くなっているギターに対しては、全体を擦り合わせて低いフレットに合わせるのではなく、消耗した5本だけフレット交換したほうが良いでしょう。
プレイスタイルやギターの状態に合わせた調整方法をご提案させて頂きます。