Morris W-80 のメンテナンスを承りました。適正な弦高とプレイアビリティ、本来のサウンドを引き出すために、各部のバランスを整えていきます。

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作業前の弦高をチェックしますと 6弦3.5mm/1弦2.7mm でした。ネックがやや順反りしていますので、最初にトラスロッド調整を行います。古いギターではトラスロッドのネジを締めきってしまい、十分な調整幅が得られない場合がありますが、幸いこの個体は問題なく効果が得られました。弦高を再計測すると 6弦3.0mm/1弦2.3mm になりました。

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さらに弦高を低くするためにブリッジ周りに手を入れていきます。12フレット上での弦高を0.5mm下げたい場合、サドルは倍の1mm削る必要があります。このギターのサドルの高さは現状で2mmしかなく、ここから1mm削ると十分な高さがなくなります。サドルの頂点からエンドピンに向けて、弦が下向きに折れ曲がる角度が不足すると、弦振動を効率的にボディトップに伝わらず、サウンドに力強さが失われます。※画像では赤線と矢印で、弦の角度とトップに伝わる弦振動の関係を示しています。

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上記の問題をクリアするため、ブリッジの上面もサドルの高さに合わせて削って低くします。

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ローズウッドのブリッジは着色されており、削ると本来の木の色が出てきますので、元通りに補色します。※トップ面の養生のため、マスキングテープの上にガムテープを重ねています。

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サドルとブリッジの関係を保ち、弦のテンション感や響きを維持したまま、全体を低くすることができました。

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これにより弦高は理想的な 6弦2.5mm/1弦2.0mm になりました。

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ブリッジ側の調整を終えたらナットの溝の深さの調整です。使用頻度の高いローポジションでの演奏性に大きく関わる部分です。画像は6弦だけを0.3mmほど溝を削ったところです。奥の弦よりも低くなっていることがご確認頂けると思います。溝をわずかに削っただけでも弦の押さえ心地は格段に軽くなります。それが弦6本をセーハするコードであれば、押さえやすさも6倍近く軽くなるので、左手への負担は極めて軽くなります。プレイ中に「力を入れて弦を押さえる」という意識は必要なくなります。初心者がFコードをマスターできずに挫折するのは、努力不足ではなくナットが高すぎるせいです。

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弦高は決まりましたので、次はフレットを整えていきます。弦高を下げるとフレットの高さのばらつきがある場合、音詰まりやビビリが生じるポジションが現れますので、擦り合わせによりこれを解消します。また、フレット両端がわずかに浮き指板から飛び出していて、演奏中に左手に引っかかって痛いフレットがあるので、隙間を埋めてバリを取って滑らかに仕上げます。

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軽くワックスで磨いて完成とします。数十年前のギターであっても、メンテナンス次第で、現代のギターと変わらない実用性を持たせることができます。ストレスなくプレイできて心地よい鳴りが得られる、まだまだ現役のギターです。


[作業内容]

Bメンテナンス 12,000円

ブリッジ高さ修正 5,000円

フレット小口のバリ取り 4,000円

弦代金

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