091ナット溝が原因で生じるトラブルを解説
ナットは、開放弦における弦振動の支点となる重要なパーツです。サウンドや弾き心地を左右する調整のポイントでもあります。
ナットの素材には、古くは象牙が使われていましたが、現在では、天然素材である牛骨や、象牙の性質に近づけた合成樹脂が主流です。弦振動を減衰させない硬度のほか、長期的には消耗パーツですので、耐摩耗性 入手性の高さ 加工しやすさなどが求められます。
そんな大切なナットですが、プレイ中の弦振動やチューニング時の弦との摩擦により、少しずつ溝が削れていきます。今回は、ナットの溝が原因で生じる代表的なトラブル2例[開放弦の音詰まりやビビリ]と[ナット溝での弦の引っ掛かり]について解説していきます。
初めに文章と図で説明をして、ページの最下部に実例の動画を載せておきます。
■開放弦の音詰まりやビビリ
開放弦の音詰まりやビビリがある場合、ネックの逆反りや、ナットが消耗して低過ぎることを想定します。これらの場合は明らかに弦高が低く、フレットに当たっているか当たるギリギリの低さになっているので、見たり触ったりすれば容易に判断できます。ネックを調整するかナットを交換すれば解決します。
今回は、ネックの逆反りもなく、ナット溝の高さや弦高が十分であるにもかかわらず、開放弦に音詰まりやビビリが生じる場合です。ピッキング直後の余韻に「ビョーン」とシタールのような音が混ざったり、音がこもって早く減衰してしまうような症状です。これらは、ナットの溝の内部にごくわずかな形状の問題であるため、あらかじめ知識を持っていないと気付くことはできません。
この図はナットと弦を側面から見たところです。図の左が正常なナット溝の形状です。図の右のように、ナット溝の頂点がわずかに奥まった位置にあると、ナットと弦の間に目に見えないほどの隙間ができます。ピッキングして弦が振動すると、隙間内で弦が触れてしまいビビリや音詰まりのような症状となります。
■ナット溝に弦が引っ掛かる
チューニング中にペグを回すと「キンキン」「ギーギー」と音を立てるのは、ナット溝に弦が引っ掛かっているからです。使用する弦の太さとナット溝の幅が合っていないか、ナット溝が削れて形状が悪くなっていることが原因です。
図にするとこのような感じです。弦はナット溝に押し付けられるように通っているため、図の右のように、溝が底に向かって狭くなるような削れ方をしていると、チューニング時に弦が滑らかに動かず、引っ掛かって音を立てます。溝の内部を滑らかに整えてやればかなり改善されます。
実際の症例と、それを改善する様子をご覧ください。
どちらの問題も、原因を見極めて少し修正をすれば、いとも簡単に改善できることです。また、溝を切り直すだけの十分な高さがない場合は、ナット交換が必要になりますのでご相談ください。