アコースティックギターサウンドの考察
皆さまは、初めて出会うギターを見たときに、その外見やスペックから、どんな音がするのか想像できますか?
実際に音を鳴らしてみると、およそイメージ通りでしょうか?
それとも、見た目やスペックだけでは、音を想像することが難しいですか?
今回の話題は、アコースティックギターの音が生み出されるプロセスを理解しておくことで、カタログに書かれているスペックをもとに、高い精度でそのギターの特性をイメージすることができるのではないか?という話です。
ギターはどのようなプロセスで音を生み出し、ボディサイズや木材の違いがどのような変化をもたらすのかを、順序立てて解説してみたいと思います。
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ギターが音を生み出すプロセスには、3つの段階があります。
1:弦の音
弦を弾いた瞬間に発生し、直接耳に届く音です。
ギターのボディによって色付けされる前の、素材のままの音だと考えてください。実際には、弦の銘柄や弦長、指板やブリッジの素材、指弾きかピック弾きかなどで音に変化が生まれます。
特に弦長は、根本的な音の強さと関係するため、注目すべきポイントになります。弦長が長ければ、そこに蓄えられている力が大きいため、音量が大きくハリとコシの強い音になります。弦長が短いと、繊細で滑らかな音で、パワーよりも表現力の高さが魅力になります。
2:トップの音
弦振動がブリッジを介してトップに広がり増幅された音です。
日本ではトップという呼び方が一般的ですが、英語圏「Soundboard」と呼ばれることも多い、ギターの音にとって重要なプロセスです。まず、その面積によって音量と高音から低音までのサウンドバランスが決定されます。
面積の小さなギターは、音量こそ控えめながら、適度に低音が引き締まり、タイトでレスポンスが良く、ボディ全体を使い切って元気よく響く感覚が得られます。
面積が大きくなるにつれ、得られる音量も大きくなり、低音成分が増していきます。余裕たっぷりで力強くダイナミックなサウンドが得られます。
また、木材の性質も音に大きな影響を与えます。
堅い木材は、新品の頃は角がある音質ですが、弾き込むほどに角が取れ、太く力強い芯の通った音へと成長していきます。音ヌケ感やパワーを求められる方にお勧めです。
柔軟性のある木材は、最初から良く響きやすく、耳なじみの良い包み込むような優しいサウンドが得られます。情緒的で繊細な表現力を求められる方にお勧めです。
3:箱の音
ボディ内部に反響して、最終的にサウンドホールから出てくる音です。
前の段階でトップに広がり増幅された音の半分は、そのままギターの前方に飛び聴衆に届きますが、もう半分はボディ内部でバックに当たります。それから何度も反射を繰り返しながら、最終的にはサウンドホールから前方に飛び出します。
薄いボディのギターは、反射のサイクルが短く、スピード感を保ったまま音が飛び出しますが、厚いボディでは、反射に時間がかかる分、それがサウンドの奥行きや余韻として感じられます。
反射を繰り返す中で、いくらかの振動エネルギーは、木材に吸収されたり、四方八方に分散されます。
また、サイド&バックに使用される木材の比重が、反射する音に変化を与えます。
比重の大きな木材が使用される場合、硬い壁にボールを当てた時のように、力強く音が返ってきます。それはつまり、失われるエネルギーが少ないということで、音の深み 艶感 煌びやかさなどを余すことなくフルレンジで送り出せることになります。
比重の小さな木材の場合は、音の返りが少し弱くなり、一部のエネルギーや特定の周波数は木材に吸収され分散されます。成分を失なってしまうというよりは、目的に合わせて欲しいレンジに整理された、扱いやすいサウンドが得られる感覚です。
ギターの正面で音を聴いていると、弾いた直後に弦の音が聴こえ、僅かな時差でトップの音と箱の音が続きます。人間の聴覚はこの時差を感知して、ギターごとの響きの違いとして認識しているのだと思います。
このように、ギターの音が発生するプロセスから考えると、もっとも支配力があるのはボディサイズであり、次にトップ材の性質、最後にサイド&バック材の性質となります。
ギター選びの際にも、ボディサイズ トップ材 サイド&バック材 の順で注目して頂けると、イメージ通りの理想のギターに近づけるのではないかと考えます。