ギターの個体差について考える
仕事柄ギターの個体差について意見を求められる事が多いので、私の意見をまとめてみようと思います。
あなたがお使いのスマホや、身に付けている衣類、周りの家電製品、乗っている車… 同条件の複数個を比較する機会がないので気付きませんが、すべての製品に個体差があると言ってもいいでしょう。
我々の間でギターの個体差が話題に上がるのは、趣味性が高くこだわりを持って選ばれる道具であり、何らかのマジックが起こることを期待して手に取られ、その性能が演奏者の感情をダイレクトに刺激するからだと思います。
弊社が販売しているギターに対して、「このギターは同じモデルの他の個体と比べて鳴りはどうか?」というご質問を頂きます。実際に同じモデルを複数在庫している場合は比較も可能ですが、過去にそのモデルを弾いた経験と比べてどう思うか?という意味でご質問頂く場合もあります。数日前の記憶なら少しは自信がありますが、数ヶ月・数年前に同モデルを弾いた記憶と、手元にある現物を正しく比較して評価する能力が私にはありません。お互いの音楽的な趣向やギターのプレイスタイルを良く知った間柄なら成立しうる話題ですが、それ以外は単なる無責任なセールストークに思えます。
繰り返しになりますが、ギターは趣味性が高く好みが分かれるもので、各自が受け取る感覚によって評価される製品ですので、他人の意見は半分くらいに薄めて参考のひとつにして頂くのが良いです。特にインターネット上には無責任で一方的な情報があふれています。私の意見もその一つなので半分にして聞いて頂きたいですし、それをホームページに書いている矛盾をお許しください。
前置きが長くなってしまいましたが、ギターの個体差とは具体的に何でしょう。
「同じメーカーの同じモデルであっても、1本1本を比較するとサウンドや弾き心地に違いを感じる」ということです。主要な材料が木材であり、人の手によって組み上げられる製品ですので、同じサウンドの傾向を備えながらも、各個に違いが生じることも当然と言えます。信頼のおけるギターメーカーであれば、その違いを規格内にコントロールして送り出すことができ、その積み重ねがアイデンティティを確立します。
ですからここはメーカーを信じて、「先天的に生じる誤差」は話題から外しましょう。それよりも私が問題だと感じるのは、後天的に生じた誤差が引き起こす勘違いの多さです。
後天的な誤差というのは、どのように使用されてきたか、その結果現在はどのようなコンディションなのかです。弦高は適正か? フレットの高さは十分か? ナットやサドルの消耗は? プレイアビリティに問題がなく、本来のポテンシャルを十分に発揮できる状態なのかが、ギターを手に取った最初の印象を大きく左右します。
そのギターが、ストレスなくプレイできる状態であれば、意図した通りのサウンドを弾き出せます。気持ち良い鳴り方のするアタリの個体だと思われるはずです。もし、気持ち良く弾けない状態なら、気持ち良い響きとは感じませんので、ハズレの個体だと判断されるでしょう。
新品のギターを選ぶ場合でもことは同じです。新品ならすべてベストコンディションで売られているだろうと思うでしょうが、季節の変化や店舗の環境により変化します。セッティング次第で評価が上下するものと考えて頂きたいです。
手に取った第一印象は大事ですが、それだけでアタリ・ハズレを決めてしまうのは勿体ないです。あなたのギター愛によって、磨けば光る 育てれば化ける 可能性は十分にあります。それは、ギターライフをもっと豊かにするヒントのような気がします。
弊社が販売するすべてのギターは、手に取った時にストレスなくプレイできると感じて頂けるよう、ベストコンディションに調整してお届けしています。他のギターと比べて優劣を考えるよりも、1本のギターの中に真価を求めて頂きたいという思いを込めています。